モリバヤサ

北京3日目の日曜日、最後のドラムサークルの後、クラスの生徒3名が去年創立したというドラムセンターを訪問した。中へ入ると、聞きなれた西アフリカのドラムの音がいい感じに響いている。

ジェンベは、中国本土でも最近盛んになりつつあって、センターにはいいタイコとプレーヤーたちが揃っていた。 グループをリードしているのは北京音楽大学の打楽器の先生二人で、彼らのすぐ横には、分厚い西アフリカのリズム教本が置いてあった。 西アフリカ諸国へ旅して回った私は、すぐにグループの輪に加わって、お馴染みの伝統曲を皆と一緒に楽しく叩き出した。

グループが次に選んだのは、「モリバヤサ」というリズムだった。 

これはとても古くからあるリズムで、村の女性が一生に一度の困難に遭遇したとき、それに立ち向かう誓いを立て、村人たちにその支援を乞う。そして年月を経てそれをついに克服した暁には、村人たちの祝福する中、その女性が「モリバヤサ」を歌い、踊る、というストーリー。これをギニアのドラムマスター、ママディ・ケイタに昔教わった。

演奏中、ふと思いついて、鞄の中にあった日の丸の付いた扇子を取り出し、サークルの真ん中に置いた。曲が終わってから、「いま私の国、日本は、(戦後)一生に一度並みの困難に面しています。日の丸の扇子を置いたとき、私は誓いを立てました。そして、ドラミング・コミュニティーの皆さんに、支援をお願いしたい。 復興するには3年、5年、いや10年かかるかもしれない。でもこの困難を克服した暁には、またここへ戻ってきて、モリバヤサを踊ります」と話した。

すると、「この曲の意味は知識として知っていたけど、この曲が僕たちにとって意味を持ったのは初めてだ」とグループ・リーダーが言った。 

この後しばらく皆が(北京語で)話し合いをしたので、聞いてみると、「くみがこんな意味深い話をしてくれた後で、次の曲を決めかねている」とのことだった。 しばらくして誰かの提案で、マリンケ族が荒れた畑を耕す時に、しんどい仕事だけど、あきらめないで、皆で頑張ろう!という歌とリズム「カサソロ」に決まり、それを皆が私に向けて笑顔で歌ってくれた!

ほとばしるリズムと歌に乗って、人間性の弾力と暖かさ、そしてこのグループと私の間に出来た新しいつながりを感じた。

ファシリテートするつもりも、あらかじめ決めたプランを持って行ったわけでもないのに、ドラムを叩きに来た人たちが、リズム以上の何か(特別な感情や体験、その意味、幸福感、他者とのつながり、等)を得て帰って行くことは、ファシリテーター(引導師)である私にとって、マジカルな宝物だ。

来月、中国は四川大地震3周年を迎える。マグニチュード8、死者7万人以上、5万人が家を失ったあの大震災の復興は、今も尚続いている。 国際機関や外国人ボランティアも含めて、復興にあたった、または今もそれに従事している人たちから、被災者の心のケアなども含め、日本はきっと学ぶことが多くあるに違いない。 

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